スティンプメーターとは? グリーンの速さを物理で読み解く
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「今日のグリーンは 10 フィート」。グリーンの速さは、このスティンプ値で語られます。 数字が大きいほど速いことは知っていても、何を測った数字なのか、 1 フィート違うとパットがどれだけ変わるのかまでは、意外と知られていません。
この記事では、まず測り方をイメージでつかみ、 次に遅いグリーンと速いグリーンで何に気をつければよいかを数値でまとめます。 数値は Putt Break Calculator と同じ物理モデルで計算しています。 式による説明は、末尾の「補足:計算の詳細」にまとめました。
スティンプメーターとは
スティンプメーターは、溝の付いた長さ 91 cm(36 インチ)のアルミのバーです。 測り方は、上の図のとおりとても単純です。
- バーの切り欠き(下端から 76 cm)にボールを置く
- バーをゆっくり持ち上げる。約 20° になるとボールが外れて、溝を転がり落ちる
- ボールはいつも同じ速さ(約 1.8 m/s)でグリーンに出ていく
- 止まるまでに転がった距離(フィート)がスティンプ値
毎回同じ速さで送り出すので、転がった距離の違いはそのまま芝の速さの違いになります。 芝の抵抗が小さい(速い)グリーンほど、ボールは遠くまで転がります。
USGA の手順では、平らな場所で同じ方向に 3 球、反対方向に 3 球転がし、6 球の平均を取ります。 同じ方向の 3 球が 20 cm(8 インチ)以内に収まらなければ測り直しです。
もとになったのは、エドワード・スティンプソンが 1935 年に作った木製の器具です。 1976 年に USGA がアルミ製に作り直し、1978 年から各地のコースで使われるようになりました。
数字の目安
USGA は、一般のコースと全米オープンについて次のような目安を示しています。
| 遅い | 普通 | 速い | |
|---|---|---|---|
| 一般のコース | 8 ft | 10 ft | 12 ft |
| 全米オープン | 10 ft | 12 ft | 14 ft |
当サイトの計算機は、少しゆっくりめの 9.5 フィートを初期値にしています。 コースのスタート室などに当日のスティンプ値が掲示されていれば、その値を入れてください。
遅いグリーンと速いグリーンで考えること
スティンプ値が変わると、パットで考えるべきことが変わります。まずは結論をまとめます。
| 遅いグリーン(8〜9 ft) | 速いグリーン(11 ft 以上) | |
|---|---|---|
| 打つ強さ | しっかり打たないと届かない。ショートに注意 | 「そっと」打つ。ただし強さの差は思ったより小さい |
| 曲がり | 曲がりは小さめ。ラインを浅めに読む | 曲がりは大きい。ふだんより大きく曲がると読む |
| 上りと下り | 上り下りの差は比較的小さい | 下りは極端に転がる。下りのパットを残さない |
| 狙う場所 | カップをしっかり過ぎる強さで、ラインはやや浅く | 曲がりを多めに読む。下りでは強く打ちすぎない |
| 3 パット対策 | 長いパットのショートに注意 | 下りの返しが残らないよう、アプローチからカップの下につける |
この表の根拠を、数値で見ていきます。
曲がりは、スティンプ値にほぼ比例する
3 m・横傾斜 1° のパットで、カップの何 cm 横を狙えば入るかを計算しました(カップを 40 cm 過ぎる強さ)。
| スティンプ値 | 8 ft | 10 ft | 12 ft | 14 ft |
|---|---|---|---|---|
| 狙い(3 m・横 1°) | 22 cm | 27 cm | 32 cm | 38 cm |
| 狙い(5 m・横 2°) | 82 cm | 105 cm | 129 cm | 155 cm |
スティンプ値が 1 フィート上がるごとに、3 m・1° の狙いは約 2.7 cm ずつ増えます。 「10 フィートで 1 カップ」のラインは、13 フィートなら約 1.3 カップ。 速いグリーンではボールが長い時間転がるので、そのぶん傾斜に長く押されるためです。
打つ強さは、思ったほど変わらない
同じ距離を転がすのに必要な強さ(打ち出しの速さ)は、スティンプ値ほどは変わりません。
| スティンプ値 | 8 ft | 10 ft | 12 ft | 14 ft |
|---|---|---|---|---|
| 3 m 先で止める打ち出しの速さ | 2.28 m/s | 2.07 m/s | 1.91 m/s | 1.79 m/s |
| 3 m を転がる時間 | 3.0 秒 | 3.4 秒 | 3.7 秒 | 4.0 秒 |
10 フィートから 12 フィートになっても、必要な速さは 1 割も変わりません。 曲がりは 2 割増えるのに、強さは 1 割弱しか減らさなくてよい。 速いグリーンで「怖くて打てない」と感じるのは、この小さな調整が体感では難しいからです。
逆に言えば、スティンプ値の読み違いは強さにそのまま出ます。 10 フィートのつもりで打った 5 m のパットは、実際が 9.5 フィートなら 22 cm ショート、 10.5 フィートなら 22 cm オーバーします。
速いグリーンほど、ボールが止まれない傾斜が増える
斜面がボールを押す力が芝の抵抗より大きいと、ボールは止まれずに転がり続けます。 速いグリーンは抵抗が小さいので、ゆるい傾斜でも止まれなくなります。
| スティンプ値 | 8 ft | 10 ft | 12 ft | 14 ft |
|---|---|---|---|---|
| ボールが止まれる限界の傾斜 | 5.6° | 4.5° | 3.7° | 3.2° |
速いグリーンの下りが怖いのはこのためです。限界に近い傾斜では、ボールはなかなか止まりません。 実際の芝では、これより少しゆるい傾斜で止まらなくなるという測定もあります(スティンプ 10 で約 3.3°)。 トーナメントでカップを切れる場所が限られるのも、同じ理由です。
傾いた場所で測るときの注意
平らな場所がないとき、行きと帰りの平均を取れば傾斜の影響は消えるでしょうか。 実は、**ふつうの平均では必ず速すぎる値になります。**正しくは次の式を使います。
スティンプ値 = 2 × 上り × 下り ÷ (上り + 下り)
これは USGA の Brede(1990)が示した補正式です。スティンプ 10 のグリーンが傾いていた場合で比べました。
| 傾斜 | 上りの距離 | 下りの距離 | ふつうの平均 | 補正式 |
|---|---|---|---|---|
| 1.3% | 8.4 ft | 12.3 ft | 10.4 ft | 10.0 ft |
| 2.1% | 7.7 ft | 14.4 ft | 11.0 ft | 10.0 ft |
| 4.4% | 6.1 ft | 27.6 ft | 16.8 ft | 10.0 ft |
傾斜が大きいほどふつうの平均はずれていき、4.4% では 10 のグリーンが 17 と出てしまいます。 補正式なら、どの傾斜でも 10.0 に戻ります。
まとめ
- スティンプ値は、決まった速さで送り出したボールが平らなグリーンを何フィート転がるか
- 一般のコースは 8〜12 フィート、トーナメントでは 12〜14 フィートが目安
- 曲がりはスティンプ値にほぼ比例する。10 → 13 なら 1.3 倍
- 打つ強さはあまり変わらない。10 → 12 でも 1 割弱
- 速いグリーンほど止まれない傾斜が増え、下りが難しくなる
- 傾いた場所で測るときは、補正式 2 × 上り × 下り ÷ (上り + 下り) を使う
自分のコースのスティンプ値で曲がりがどう変わるかは、 Putt Break Calculator の「芝の速さ」を動かすと 3D で確かめられます。 距離と傾斜ごとの狙いを一覧にしたい場合は、曲がり幅早見表ジェネレーター が便利です。
補足:計算の詳細
ここからは、本文の数値の根拠を式で説明します。
スティンプメーターから出る速さ
切り欠きから下端までは 30 インチ(0.762 m)、角度は 20° なので、ボールが下る高さは h = 0.762 × sin 20° ≒ 0.261 m です。転がる球では、位置エネルギーの一部が回転のエネルギーになります。 球の慣性モーメント I = (2/5) m r² を使うと
m g h = ½ m v² + ½ I ω², ω = v / r
⇒ v = √( (10/7) g h ) ≒ 1.91 m/s
スティンプメーターの溝は開き角 145° の V 字なので、ボールは溝の 2 つの面に触れて転がります。 回転の半径は r_eff = r cos 17.5° ≒ 0.954 r に縮み、同じ速さでもそのぶん速く回ります。
ω = v / r_eff
⇒ v = √( 2 g h / (1 + (2/5)(r / r_eff)²) ) ≒ 1.88 m/s
公称の 1.83 m/s(6.0 ft/s)はこれより 3% ほど小さく、その差は溝の上での抵抗などで失われる分と考えられます。 バーは 20° 傾いているので、グリーンに沿って進む成分は v_s = 1.83 × cos 20° ≒ 1.72 m/s です。 Brede(1990)の測定から逆算した値(1.70 ± 0.03 m/s)ともよく合います。
スティンプ値と転がり抵抗
芝の抵抗による減速度を μg(μ は転がり抵抗の係数)とすると、速さ v_s で転がり始めたボールが止まるまでの距離は
S = v_s² / (2 μ g) ⇔ μ = v_s² / (2 g S)
です。スティンプ値は μ の逆数に比例し、スティンプ 10 で μ ≒ 0.050(減速度 0.49 m/s²)になります。
| スティンプ値 | 8 ft | 10 ft | 12 ft | 14 ft |
|---|---|---|---|---|
| 転がり抵抗 μ | 0.0618 | 0.0495 | 0.0412 | 0.0353 |
距離 D を転がすのに必要な初速は v₀ = √(2μgD) = v_s √(D/S) で、√S にしか効きません。 本文の表の初速は、打った直後のホップとスキッドで失う分を含むため、この式より 2 割ほど大きくなっています (詳しくは「パットの最初の20%は「転がっていない」」)。
曲がりがスティンプ値に比例する理由
横傾斜 θ の面では、転がるボールは横向きに a = (5/7) g sin θ の加速度を受けます (5/7 は、力の一部が回転を速めるのに使われるため)。進行方向の減速度は μg です。 運動方程式を μg で割ると、軌道の形を決めるのは次の比だけになります。
(5/7) sin θ / μ ∝ sin θ × S
「傾斜 × スティンプ値」が同じなら、ほぼ同じ形のラインになります。 曲がりが小さい範囲ではこの比に比例するので、曲がりはスティンプ値にほぼ比例します。
止まれる傾斜
斜面が押す力が芝の抵抗を超えなければ、ボールは止まっていられます。
(5/7) g sin θ ≤ μ g ⇒ tan θ ≲ (7/5) μ
本文の表は、止まる間際に芝の抵抗が少し増える効果(当サイトのモデルで最大 15%)を含めた値です。
傾斜地での補正式
傾斜 φ の上りと下りでは、減速度が μg ± (5/7) g sin φ になります。
S↑ = v_s² / (2 (μg + k)), S↓ = v_s² / (2 (μg − k)) (k = (5/7) g sin φ)
1/S↑ + 1/S↓ = 4 μ g / v_s² = 2 / S
⇒ S = 2 S↑ S↓ / (S↑ + S↓)
逆数を足すと傾斜の項 k が消えるので、往復の調和平均が正しいスティンプ値になります。
計算条件: 当サイトの物理モデル(スティンプ値から転がり抵抗を校正し、 ホップ・スキッド・純転がりを経て、カップ縁での落下条件で判定)。 初速・時間・狙い・止まれる傾斜は、低速域の抵抗増加(15%)を含むモデルの値です。 スティンプメーターの寸法と目安の値は USGA によります。
- A. D. Brede, "Measuring Green Speed on Sloped Putting Greens", USGA Green Section Record 28(6), 1990
- J. Lemons, "Putting Green Speeds, Slopes, and 'Non-Conforming' Hole Locations", USGA Green Section Record 46(4), 2008
- B. W. Holmes, "Dialogue concerning the Stimpmeter", The Physics Teacher 24, 1986