「17インチオーバー」は本当に最適なのか
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「パットはカップを 17インチ(約43cm) オーバーする強さで打つのが一番入る」。 デーブ・ペルツの研究として知られる、おそらく最も有名なパッティングの目安です。
本当にそうなのか。Putt Break Calculator と同じ物理モデルで検証しました。
検証のしかた
「オーバー量」とは、カップが無かったとしたらボールが何cm先で止まるかです。 強さを少しずつ変えながら、打ち出しのばらつき(距離 7%・方向 0.8°)を考慮した カップイン確率を計算し、確率が最大になるオーバー量を探しました。
比較するのは次の2つです。
- 最適: その条件でカップイン確率が最も高くなる強さ
- 17インチ固定: オーバー量がちょうど43cmになる強さ
差が小さければ「17インチは実用上じゅうぶん良い」ということになります。
平坦なグリーンでの結果
スティンプ10フィート、平坦。
| 距離 | 最適オーバー量 | カップ到達速度 | 最適の確率 | 17インチ固定 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 m | 25 cm (9.8 in) | 0.60 m/s | 100.0% | 99.9% | 0.0 pt |
| 2 m | 31 cm (12.2 in) | 0.65 m/s | 92.4% | 91.6% | 0.8 pt |
| 3 m | 41 cm (16.1 in) | 0.73 m/s | 74.4% | 74.4% | 0.1 pt |
| 4 m | 50 cm (19.7 in) | 0.80 m/s | 58.6% | 58.4% | 0.2 pt |
| 5 m | 59 cm (23.2 in) | 0.86 m/s | 46.9% | 45.9% | 1.0 pt |
| 6 m | 63 cm (24.8 in) | 0.88 m/s | 38.6% | 37.6% | 0.9 pt |
| 8 m | 69 cm (27.2 in) | 0.92 m/s | 28.8% | 27.2% | 1.6 pt |
| 10 m | 76 cm (29.9 in) | 0.96 m/s | 20.9% | 19.7% | 1.3 pt |
最適なオーバー量は一定ではありませんでした。 1mでは10インチ、10mでは30インチと、 距離が伸びるほど大きくなります。17インチがちょうど当てはまるのは3m前後です。
ところが、17インチに固定したときの損失は最大でも1.6ポイントしかありません。 8mのパットで28.8%が27.2%になる程度です。100回打って1〜2回の差で、 実際のラウンドで体感できる差ではありません。
一つの数字で全距離をカバーする目安としては、かなり優秀だと言えます。
上りと下りで何が変わるか
4m・スティンプ10フィートで、前後の傾斜だけを変えました。
| 傾斜 | 最適オーバー量 | カップ到達速度 | 最適の確率 | 17インチ固定 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 上り3° | 35 cm (13.8 in) | 0.94 m/s | 45.1% | 44.4% | 0.7 pt |
| 上り2° | 40 cm (15.7 in) | 0.91 m/s | 48.7% | 48.6% | 0.1 pt |
| 上り1° | 42 cm (16.5 in) | 0.84 m/s | 53.9% | 53.9% | 0.0 pt |
| 平坦 | 50 cm (19.7 in) | 0.80 m/s | 58.6% | 58.4% | 0.2 pt |
| 下り1° | 51 cm (20.1 in) | 0.68 m/s | 73.7% | 73.2% | 0.5 pt |
| 下り2° | 63 cm (24.8 in) | 0.58 m/s | 88.2% | 86.0% | 2.3 pt |
| 下り3° | 162 cm (63.8 in) | 0.52 m/s | 100.0% | 89.2% | 10.7 pt |
上りでは17インチはほぼ完璧です。最適値そのものが14〜17インチに寄るうえ、 固定したときの損失は0.7ポイント以下しかありません。
下りでは話が変わります。 傾斜が強くなるほど最適オーバー量が急激に大きくなり、 下り3°では**63インチ(1.6m)**がベストという結果になりました。 17インチに抑えると確率が10.7ポイント落ちます。
なぜ下りで目安が崩れるのか
表の「カップ到達速度」の列を見てください。
最適な強さで打ったとき、カップに届く瞬間の速度は 0.5〜1.0 m/s の範囲に収まっています。 傾斜がどうであれ、入るパットの到達速度はだいたい同じなのです。 物理的に見れば、これが本質です。カップは速度で決まり、オーバー量は関係ありません。
平坦では、この到達速度とオーバー量がきれいに対応します。だから 「17インチオーバー」という言い換えが成立します。
ところが下りでは、この2つが切り離されます。実際に計算した例です。
下り3°・4m のパット
カップ到達速度 0.87 m/s ← 入る速度
オーバー量 639 cm ← カップが無ければ6m先まで転がる
カップにはゆっくり届くのに、通り過ぎたあとも斜面に押されて転がり続ける。 下りではオーバー量が到達速度をまったく代表しなくなります。 だから「43cmオーバー」という言い換えが機能しません。
もうひとつ、下りには独特の性質があります。 下り3°では狙い角の許容幅が ±3.1° もありました(平坦では±0.6°)。 重力が前方向の速度を足し続ける一方、横方向の速度は摩擦で減っていくため、 方向のミスが途中で自己補正されるのです。下りの確率が高く出ているのは、これが理由です。
傾斜には限界がある
検証中、傾斜4°を超えると計算が破綻しました。これはモデルの不具合ではありません。
スティンプ10フィートのグリーンの転がり摩擦係数は μ = 0.0552。 ボールが自力で止まっていられる限界の傾斜は、
arctan(0.0552) = 3.16°
3.16°を超える斜面では、ボールは永久に止まれません。 実際のグリーンでも、 これより急な場所にカップは切れません(切ると風でボールが動き出します)。 上り4°で「届かずに転がり戻り、そのまま下り続ける」という結果が出たのは、正しい物理です。
腕前による違い
ばらつきを変えて、4m・平坦で比べました。
| 腕前(距離/方向のばらつき) | 最適オーバー量 | 最適の確率 | 17インチ固定 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 上級(4% / 0.8°) | 30 cm (11.8 in) | 62.7% | 61.5% | 1.3 pt |
| 中級(8% / 1.5°) | 53 cm (20.9 in) | 33.2% | 33.0% | 0.2 pt |
| 初級(14% / 2.5°) | 69 cm (27.2 in) | 17.3% | 16.5% | 0.8 pt |
ばらつきが大きいほど最適オーバー量も大きくなりますが、 17インチ固定の損失はどの腕前でも1.3ポイント以下でした。 上級者だけの目安ではない、ということになります。
重要な但し書き
ここまでの確率は、「そのパットが入るか」だけを見ています。 外したときに残る距離、つまり3パットのリスクは含んでいません。
下り3°で最適とされた「1.6mオーバー」は、外せば1.6mの返しのパットが残ります。 しかもそれは上りではなく、さらに難しい下りの残りになることもあります。 入る確率だけを最大化すると、スコアは悪化しかねません。
この観点で見ると、下りで17インチに抑えるのはむしろ理にかなっています。 入る確率は10ポイント落ちますが、外したときの残りが43cmで済みます。 ペルツの目安が長く支持されてきたのは、入る確率と3パット回避の 両方で悪くない点を突いているからだと考えられます。
まとめ
- 平坦・上りでは、17インチはほぼ最適。 損失は1ポイント前後で、実用上は差がない
- 最適値そのものは距離で変わる(1mで10インチ、10mで30インチ)が、気にする必要はない
- 下りでは目安として機能しない。 オーバー量と到達速度が切り離されるため
- 本質はカップ到達速度 0.5〜1.0 m/s。オーバー量はその言い換えにすぎない
- ただし入る確率だけを追うと3パットが増える。下りで抑えめに打つ判断は正しい
自分のグリーンの速さ・傾斜・距離で同じ計算を試すなら、 Putt Break Calculator で「おすすめの強さとエイム」を見てください。 「入る範囲のマップ」では、強さと狙いのどの組み合わせが入るのかを面で確認できます。
計算条件: 当サイトの物理モデル(スティンプ値から転がり摩擦係数を校正し、 ホップ・スキッド・純転がりを経て、カップ縁での落下条件で判定)。 確率は打ち出しのばらつきを距離方向に対数正規・方向に正規分布と仮定して積分したものです。 モデルの詳細と検証方法は運営者情報に記載しています。